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筆者が研修医の頃(約30年前),脳動脈瘤に対する開頭クリッピング術にはほぼ全例にトリメタファン(商品名アルフォナード)1)を用いた低血圧麻酔hypotensive anesthesiaが行われていた。人為的低血圧によって出血量を減少させ,良好な術野が確保できるため,手術時間の短縮が可能となり,ほかにも乳癌,脊椎手術,大腿骨の手術,下顎骨形成術など出血量が多くなる術式に広く活用されていた。しかし,クリッピング術後の攣縮期間(発症後4〜14日)にはトリプルH(hypervolemia,hypertension,hemodilution)の管理が良い2, 3)とされるようになり,術中管理もそれに準じるようになった。さらに,術中の低血圧(収縮期血圧90〜60mmHg)は術後の血管攣縮を引き起こすといわれるようになり4),人為的低血圧は回避されるようになった。乳癌や脊椎の手術においても,電気メスを含めたエネルギーデバイスの進化,術式の低侵襲化やインプラントの改良,麻酔科領域においてもデスフルランやレミフェンタニルなど,麻酔薬そのものによる進化で低血圧維持が容易となり,次第に血管拡張薬を用いた低血圧麻酔は行われなくなり,ついに2001年,トリメタファンは生産中止1)となった。
2019年現在,日本で低血圧麻酔法が認められている血管拡張薬はニトログリセリン,ニトロプルシドであり,アルプロスタジルアルファデクスが一部条件付きで保険収載されている。また,研究面でも低血圧麻酔に関する研究論文は1993年を境に減少していった。しかし,低血圧麻酔は下記の定義に示すような血圧を維持できれば,麻酔管理料が2倍になる(12200点)「お得な麻酔方法」である。本稿では,古き良きこの低血圧麻酔に再度スッポトライトを当てて検証する。
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