別冊秋号 血圧
17 体位と血圧の関係
井上 莊一郎
1
1聖マリアンナ医科大学 麻酔学教室
pp.101-106
発行日 2019年9月14日
Published Date 2019/9/14
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3104200094
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「体位を変えたらすぐに血圧を測れ」は,麻酔科医になりたての頃に指導され,しみついている習慣である。それでも,術後に患者の体位を変えたところ高度な低血圧となり,治療に苦労したことがある。
平均血圧は心拍出量と末梢血管抵抗の積であり,心拍出量には前負荷,心筋収縮力,心拍数,血液の粘性などが複合的にかかわる。水平仰臥している場合,心臓から駆出された血液はほぼ同じ高さにある動脈内を流れ,静脈内の血液は心房に還流する。このとき,重力が循環系に及ぼす影響はほぼ均等で,動脈圧はどこで測定してもほぼ一定となる。しかし,体位によって血管の部位に高低差が生じると,血圧は重力の影響を受けて変化する。静脈還流も重力の影響を受け,前負荷の変化に応じて心拍出量が変化し,血圧は変動する。
生体内ではこの体位の変化に伴う循環変動に対し,臓器血流,血圧,酸素供給を一定に保つ反応が駆動される。これがすみやかに駆動されないか,駆動されても不十分であると,血圧や臓器血流の低下による弊害が生じ得る。起立時に失神して外傷を負うことや,体位変換後に血圧が急激に低下することなどである。起立性低血圧のリスクが高い患者や,出血で循環血液量が減少していたり,神経系を抑制する薬物の影響を受けている周術期の患者ではこの危険性は高いといえる。また,血圧測定値を解釈するうえでは,患者の体位や重力の影響を常に考えていなければならない。
本稿では,体位変換に伴うすみやかな血圧調節機構や脳血流調節機構を概説し,起立性低血圧について解説した後に,手術患者の体位と血圧測定上の注意点などについて述べる。
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