特集 どうする? PCAS
❻ 低体温療法は本当に効かないのか?—歴史的経緯から低体温療法が有効な患者群を探る
内藤 宏道
1
,
湯本 哲也
1
,
中尾 篤典
1
Hiromichi NAITO
1
,
Tetsuya YUMOTO
1
,
Atsunori NAKAO
1
1岡山大学学術研究院医歯薬学域 救命救急・災害医学講座
キーワード:
Hypothermia after Cardiac Arrest study
,
HACA study
,
TTM trial
,
HYPERION trial
,
TTM2 trial
,
HACA in-hospital trial
,
high quality TTM
Keyword:
Hypothermia after Cardiac Arrest study
,
HACA study
,
TTM trial
,
HYPERION trial
,
TTM2 trial
,
HACA in-hospital trial
,
high quality TTM
pp.547-555
発行日 2024年10月1日
Published Date 2024/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3102201212
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はじめに
心停止後の治療成績はいまだ十分とは言えず,2017年の日本における院外心停止の1か月生存率は約6.6%,1か月の神経学的転帰良好例は約3.8%1)にとどまっている。心停止後症候群post-cardiac arrest syndrome(PCAS)では,脳・心臓,その他の臓器を含む多臓器に障害が生じる。なかでも,心停止前後の脳虚血は重篤な脳障害を引き起こすことが多く,意識障害が遷延し2),患者はもちろん,家族や医療従事者にも大きな負担となる3)。
動物実験4)では,心停止に対し,体温を低く維持する低体温療法の効果が証明されており,虚血再灌流障害に対し,グルタミン酸の放出抑制,抗アポトーシス作用,抗炎症作用,フリーラジカル産生の抑制などの作用を示す。しかし,実際の臨床で,低体温療法の効果を証明することは難しい。これまでの臨床研究のエビデンスレベルは低く,結果も一貫しない。最新の国際コンセンサス5)では37.5℃以下の発熱防止が推奨されており,低体温療法の効果は不明とされている。
このため,各施設で,低体温療法,平温療法,発熱防止といった,さまざまな体温管理が心停止後の患者に対して行われている。このような状況のなか,体温管理療法に関するさらなる研究と臨床試験が進められており,最適なプロトコルの確立と患者転帰の改善に向けた研究が期待される。
本稿では,成人のPCAS患者における体温管理療法のエビデンスを歴史的経緯も含めて概説し,さらに低体温療法が有効な可能性がある患者群についても考察する。
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