- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
There are those who ardently advocate it, there are those who in great part reject it, there are those who, Laodicean-like, are lukewarm concerning it, and finally, some who, without convictions, are either for or against it, use it or dispense it, as chance or whim, not logic may determine. Joseph Price (1853-1911)
体腔のドレナージの歴史は古く,ヒポクラテスの時代にまで遡る1,2)。1800年代になると術後にもドレーンが用いられるようになり,1855年にはPeaslee ERが初めて卵巣腫瘍切除後に経腟的にDouglas窩にゴム製の管を留置している3)。19世紀の後半になると,1881年には再建法にも名を残すBillroth4)が胃切除後に,1884年にはSims5)が婦人科術後に予防的なドレーンを留置するようになった。ただし,その時代から批判的な意見は存在し,Kelly HAやHalsted WSは盲目的なドレーン留置を戒め,死腔を残さず滲出液や血液を出さないような精密な手術の必要性を説いた2)。
1880年代のドレーンは脱灰された雄牛の骨,腸線,ガーゼ,ゴムなどであり,現在とは大きく異なるものであった。その後も是非をめぐって論争を重ねながら,材質もシリコン製のものに変わったり,吸引や閉鎖陰圧システムを採用したりと,時代の変遷に伴いドレーンも進化を続けた。
20世紀後半にもなると,消化管術後の予防的ドレーンの有用性は認めないとの報告が,相次いでなされるようになった。さらに,2004年にPetrowskyら6)が,肝切除,結腸・直腸切除,虫垂切除後に関しては,予防的なドレーン留置は省略されるべきであるとのメタ解析を報告してからは,これらの領域に関する議論は主要な雑誌からは姿を消し,現在は膵切除後のドレーンの是非について検討が重ねられている。
このような趨勢のなかにあって,日本でも結腸や肝切除後についてはルーチンでの予防的ドレーン留置は不要7〜9)とする報告も散見されるようになってきたが,直腸低位前方切除や肝切除,膵頭十二指腸切除後には,ほぼルーチンでドレーンは留置されている10)ようである。はたして,腹部術後のドレーンは,どのように位置づけられるべきであろうか。各臓器ごと(主に予定手術)と,腹膜炎時(緊急手術)に分けて知見をまとめていくこととする。
Summary
●結腸・直腸切除,肝切除,虫垂切除後に,ルーチンでのドレーン挿入を支持するよいエビデンスはない。
●胃切除,膵切除後については,議論のあるところである。
●肝切除後には胆汁瘻に,また,膵周囲の郭清を伴う胃切除後や膵切除後には膵液瘻に注意する。
Copyright © 2016, MEDICAL SCIENCES INTERNATIONAL, LTD. All rights reserved.