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敗血症とは,病原体感染によって生体内で炎症性メディエータが過剰に産生されている状態と考えられ,その基本病態としてSIRS(systemic inflammatory response syndrome)という概念が知られている。実際に,敗血症患者では腫瘍壊死因子tumor necrosis factor-α(TNF-α)やインターロイキン-1β(IL-1β)などの血中の炎症性サイトカインが増加することや,これら炎症性サイトカインの遺伝子多型と敗血症の発症や重症度が関連すること,さらに敗血症の動物モデルにおいて炎症性メディエータの中和や阻害による治療効果が認められている1)ことなどから,炎症が敗血症において中心的な役割を果たしていることについては疑いようがない。
しかし,これまで炎症を治療標的としたさまざまな臨床試験はことごとく否定的な結果に終わっている1)。考えられている原因として,敗血症が単なる過剰な炎症状態ではなくさまざまな要因や因子が複雑に関連する病態であり,単一の因子の阻害だけでは治療が不十分なこと,炎症状態も早期や後期など時間経過によって複雑に変化しており,過剰な炎症だけではなく,炎症抑制状態も生じていることなどが挙げられる。炎症を標的とした真に有効な治療法の確立のためには,敗血症における炎症について,時空間的な炎症状態を正確に把握し,その機構を解明していく必要がある。
本稿では,敗血症の炎症についての知見と,それを標的とした最近の臨床試験について述べるが,病態生理が詳細に解説されている前回の特集*1も参考にしていただきたい。
Summary
●インフラマソームは,病原体による感染のみならず,痛風発作や2型糖尿病,動脈硬化などの病態における無菌性炎症惹起の新たな分子機構の1つであることが明らかとされた。インフラマソームが活性化されて高炎症状態が引き起こされると,ピロトーシスと呼ばれる細胞死を誘導する。
●敗血症では,早期から炎症性・抗炎症性の両方のサイトカイン産生が活性化されていることが確認され,これら炎症と抗炎症反応のバランスによって敗血症の炎症状態が決定される。
●免疫過剰状態を標的とした臨床試験がこれまで数多く行われてきたが,そのほとんどが失敗している。
●敗血症患者の多くは急性期を切り抜け,その後のCARSやPICSと呼ばれる免疫抑制状態が問題となる。この観点から,免疫を賦活化する免疫調節療法の可能性が探られている。
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