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近年,多剤耐性の緑膿菌Pseudomonas aeruginosaやアシネトバクター属Acinetobacter spp.が日本国内でも話題になっており,「耐性菌による院内感染」という言葉が新聞を賑わすことが多くなった。新しい抗菌薬が開発されれば,その数年後には耐性菌が発現するといういたちごっこが続いているのは知るところである。新しい機序の抗菌薬を永遠に開発し続けることは不可能であり,多剤耐性グラム陰性桿菌の感染症に対して,副作用のために使われなくなったcolistinなどの抗菌薬が見直され始めているのが現状である。
耐性菌対策のために抗菌薬の適正使用が必須であることに異論はないだろう。しかし,何をもって「抗菌薬の適正使用」と定義するのだろうか。病院全体で「抗菌薬の適正使用」を目指すとなると,適応のない疾患に抗菌薬を使わない,狭域の抗菌薬を使うようにする,などの個人の努力だけでは限界がある。米国の多くの病院には,“抗菌薬スチュワードシップ antimicrobial stewardship”という,抗菌薬の適正使用を目的とする部門が存在する。米国における感染症の二大学会である米国感染症学会Infectious Diseases Society of America(IDSA)と米国医療疫学会 Society for Healthcare Epidemiology of America(SHEA)のガイドライン1)によれば,副作用や耐性菌の発現,Clostridium difficile感染症などの,抗菌薬使用による意図しない影響を最小限にしながら,患者のアウトカムを最適化することを目的としているのが抗菌薬スチュワードシップである。また,不適切な抗菌薬の処方を減らすことによる医療費削減の副次的効果も示されている。
抗菌薬スチュワードシップの有効性について研究した論文や総論1~6)は多いものの,スチュワードシップが実際にどのように行われているかを理解することは難しい。本稿では,抗菌薬スチュワードシップの実際の運用について,具体例を示し紹介する。
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