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手術におけるさまざまな生体侵襲の緩和を目的とする麻酔。その学術および技術は向上の一途をたどっています。私が医師として麻酔を学びはじめた1990年代初頭に,イソフルランに加えてセボフルランが登場しました。それをさかのぼること1960年代,ちょうど私が生まれた時期に,Ross TerrellとRichard Wallinが,それぞれ独自にセボフルランを合成しています。特にTerrellは,吸入麻酔薬の元となる約700種類のフッ素化合物を合成し,エンフルラン,イソフルラン,デスフルランなどを開発しており,吸入麻酔薬の父として知られています*。
今回の徹底分析シリーズは,今号の①「症例から学ぶ臓器障害と合併症」および,②「研究から学ぶ臓器保護」の2部構成として,麻酔における臓器管理を考えていきます。
麻酔中にわれわれは,使用する麻酔薬のPK/PD(pharmacokinetics/pharmacodynamics)に常に気を配ります。なかでも注意しているのは,てんかん,脳出血,脳梗塞による覚醒遅延などでしょうか。術中のショックや周術期心筋梗塞も見落とせません。急性肝障害は現在でもなお,例えば膵体部手術などで門脈を遮断する状態では肝血流管理と血栓管理上の注目点です。麻酔ではさまざまな薬物を使用するので,術後の肝障害を予測・評価することはとても難しいのですが,これらの注意事項を押さえておく必要があります。一方で,そもそも急性腎障害を誘発させない術中からの工夫も期待されますし,また,骨格筋および神経筋接合部の管理について,パンクロニウムからベクロニウムへ,そして現在のロクロニウムへという,筋弛緩薬の変遷も押さえておきたいところです。
ということで,前編に当たる今号では,麻酔が臓器機能に与える影響を考えるうえで「具体的症例」を共有することを目的に,意識障害,ショックと心筋障害,急性肝障害,急性腎障害,筋弛緩薬作用を取り上げました。
2回の特集を通して麻酔と生体侵襲について,知識をブラッシュアップしてください。
*このような麻酔の歴史は,日本麻酔科学会麻酔博物館でうかがい知ることができます。
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