快人快説
—麻酔メカニズム研究シリーズ⑨—臨床でも役に立つ麻酔作用機序〜意識は記憶の時間微分である〜
上農 喜朗
1
Yoshiroh KAMINOH
1
1紀南病院 麻酔科
pp.533-542
発行日 2021年5月1日
Published Date 2021/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3101201987
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はじめに
1997年,私は創刊されて間もない本誌に「熱力学と麻酔」というタイトルで,熱力学的な視点からみた麻酔作用機序を紹介しました1)。それから約四半世紀がたちましたが,最近も同じような検討を行った論文が発表されています2,3)。熱力学に例外はなく,当然なこととはいえ,昔の研究が再検討され支持されたことは嬉しいことです。
ところで,私は当時からリン脂質膜の相転移温度を低下させたり,酵素の反応を抑制したり,膜の活動電位を抑えるというような分子レベルでの麻酔薬の作用と,生体で見られる麻酔現象の間に乖離があることが気になっていました。そこで,両者をつなぐ神経ネットワークに重要な役割があるのではないかと考えていました。
その頃漠然とイメージしていたのが,本稿のサブタイトル「意識は記憶の時間微分である」という言葉です。全身麻酔の重要な要素である意識消失を数学的に表現したものです。本稿では麻酔薬の分子レベルでの効果と臨床の麻酔作用をつなぐものとして神経ネットワークをモデル化し,麻酔薬が作用したときの伝達遮断を数学的に考察します。
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