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1974年,生体工学者の青柳卓雄博士は,患者モニタリングに重大な意義をもつ発明をし,患者安全に貢献した1)。博士は,非侵襲的心拍出量計の開発をしていたが,その過程で偶然にパルスオキシメトリの発明に至った。博士の発明以前の酸素飽和度の測定は,ヒューレット・パッカード社の耳型8波長オキシメータ*1のように大型の装置を必要とし,その存在は研究室に埋没していた。博士は,動脈波形をフィルターにかけ,光センサーが受けたすべての情報を周波数分解し,除算することで,8波長オキシメータが処理しなければならないさまざまな要因(皮膚の厚さや色,その他)を標準化した2)。これが,有名な青柳博士のAC/DC発明である。「酸素化ヘモグロビンで吸光が変わる」特定の波長での光量の比を,「酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンの両方で吸光が変わる」別の波長での光量の比で除算する(つまり「比の比」)と,実験室条件で計測した動脈血酸素飽和度とが相関する。博士の先駆的な実験と研究によりパルスオキシメトリが発明され,今では“第5のバイタルサイン”と呼ばれる。
青柳博士のパルスオキシメトリの発明は,患者モニタリングと患者安全にとって重大な進歩である。パルスオキシメトリ以前の麻酔関連死と脳傷害は非常に多かったが,それは麻酔科医が患者の酸素飽和度を評価する方法が,間欠的な動脈穿刺による採血検査か,低酸素の指標として口唇色のチアノーゼを観察するしかなかったからである。麻酔中のパルスオキシメトリ使用の有無で死亡率が変わるかを調べた2万人の患者の研究3)で,死亡率に差はみられなかったが,パルスオキシメトリが使われ始めて以降,麻酔関連死は1万例に1件から100万例に1件へと大幅に減少した4)。臨床医は,すぐにパルスオキシメトリの価値に気づき,手術室や集中治療室での標準的医療に組み込み始めた。
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