新説 浮世鑑
管待態の愛敬づきて,物のいひざま憎からず
石黒 達昌
pp.1228
発行日 2020年11月1日
Published Date 2020/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3101201835
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今まで30年近く医者をやってきて,いまだに判然としないことがあります。一言でいえば「特別な医療は存在するのか?」です。これに関して,渡辺淳一は「未熟な若い医者に手術される人は可哀そうだが,名目上,最低ラインの医療はクリアされている」と書いています。そこで思い出すのは『白い巨塔』の中で,癌に蝕まれた現教授を手術したのは前教授(宿敵でしたが),という「特別な医療」です。もっとも,非切除手術となって現教授がその恩恵に浴することはありませんでした。「治せる病なら研修医でも治るが,治せないものは名人でも治せない」。これが,最低ラインの真の意味なのかもしれません。
「特別な医療」を「特別扱い」と言い換えると,少しわかりやすいかもしれません。医療現場で著名人に対する特別扱いは確かに存在していますし,特別料金の教授診のように,それが制度化されているところすらあります。懐に余裕のある患者の側からすれば,コネを探る手間がない分,ありがたいシステムともいえます。病室の差別化はもっとわかりやすい例で,今やメディカルツーリズムを期待して,1日数十万円の個室さえあるほどです。
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