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筆者が初めて成人先天性心疾患の麻酔を担当することになったのは,麻酔科専門医をとったばかりのことだった。新生児期に修正大血管転移に対してMustard手術を受けていた男性が20代半ばになって房室弁逆流のため弁形成術を受けたという経過だったと記憶している。成人の心臓外科医が,小児心臓外科医の介助を受けながら手術を行っていた。それでも,心筋保護液でなかなか心停止が得られず,冠動脈の走行を画像で再確認する必要があったり,人工心肺から立ち上がらず,結局extra cardiac life support(ECLS)で心機能の回復を待つことになったり。ともかく大変な1日だった。
トロントでは,成人先天性心疾患の手術はすべて,小児心臓外科医が成人の心臓外科血管センターに赴いて手術を行うシステムになっている。トロントの小児心臓外科医は,成人の心臓外科手術のトレーニングも充分に受けているのである。成人先天性心疾患の手術件数の増加に伴い,このセンターの心臓麻酔科医は通常の心臓麻酔に加えて,成人先天性心疾患の麻酔にも対応できなくてはならない。
日本でも,成人先天性心疾患の周術期管理は,一部の心臓麻酔科医がわかっていればよいという時代ではなくなるだろう。そのため,筆者自身が初めて成人先天性心疾患の麻酔を担当した当時と同じくらいの麻酔科専門医を読者対象として,今回の特集を企画した。まずは,日本の成人先天性心疾患の診療の現状を把握し,成人となった遠隔期に起こり得るさまざまな合併症を理解したうえで,画像診断を中心とした心機能や解剖学的構造評価の最新戦略に触れてほしい。そして,麻酔科医が今後担当する機会が増えるであろう主要な病態(特にfailed Fontan)を,外科医そして麻酔科医の観点から理解してほしい。さらに,麻酔科医が産科医療とも積極的に連携するようになった現在,成人先天性心疾患患者の妊娠・出産に理解を深めておくのも大事である。
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