徹底分析シリーズ これからの末梢神経ブロック
局所麻酔薬の神経内注入と神経障害―局所解剖学と超音波解剖学を理解し,注入部位による違いを把握しよう
金 亨泰
1
,
柴田 康之
2
Hyungtae KIM
1
,
Yasuyuki SHIBATA
2
1Department of Anesthesiology and Pain Medicine, Presbyterian Medical Center, Jeonju, Korea
2名古屋大学医学部附属病院 麻酔科
pp.670-677
発行日 2012年7月1日
Published Date 2012/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3101101567
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末梢神経ブロック後の神経障害はまれであるが,永久的な後遺症を残すこともある。末梢神経ブロック後の神経障害の頻度1)は,腕神経叢ブロック鎖骨上アプローチで0.03%,大腿神経ブロックで0.3%,腕神経叢ブロック斜角筋間アプローチで3%であるが,これらの大部分は一過性で,数週から数か月で回復する。末梢神経ブロック後の神経障害の原因は,はっきりしないことが多く,局所麻酔薬の神経内への注入(神経内注入)も要因として考えなければならない。
末梢神経ブロックの技術は,過去20年で放散痛法から神経刺激法に,さらには超音波ガイド下法へと飛躍的に発展した。超音波画像は,神経と針先の位置関係や局所麻酔薬の広がりをリアルタイムに,かつ正確に教えてくれるようになったが,放散痛や神経刺激は間接的指標であり,以前は針と神経の位置関係を正確に知ることはできなかった。神経刺激法では,電流閾値0.2mA以下で筋収縮がなく,0.2~0.5mAで筋収縮があれば,神経内注入にはならずに安全とされてきた。ところが近年,この安全とされる範囲内であっても神経刺激法では,神経内注入が当たり前のように起きていたことが明らかになった2~6)。そして,偶発的神経内注入が臨床的に神経障害を残さなかった4~7)という報告や,ブロックの作用発現が速く,成功率が高いといった意図的な神経内注入の利点が報告4,5)されるようになった。
このように,神経内注入の危険性への認識が薄れようとしている今だからこそ,意図的な神経内注入の是非について再考する必要がある。本稿では,神経の組織学的構造をもとに,局所麻酔薬の神経内注入を分類し,その臨床的な意義を解説する。
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