- 販売していません
- 文献概要
お釈迦様と孫悟空
“癌患者の麻酔に特別なことはありますか?”
本症例検討は,“食道手術の麻酔”である。内容は,食道癌手術と小児の裂孔ヘルニアの麻酔である。食道癌手術は,施設間で多少の差異はあるとしても,開胸開腹+頸部手術という侵襲は大きい。また近年,術前に補助化学療法や放射線治療が行われた症例の根治術や鏡視下手術も増えている。さらに,患者の高齢化で術前合併症も多様になっている。
食道癌に特別な麻酔管理が存在するのか。術中は,特別な機器を使用したモニタリングが必要なのか。術後は呼吸管理が必須か。待てよ,開胸操作中の分離換気については,肺切除の知識を駆使しよう。頸部操作中は,頭頸部領域手術を思いだそう。術式は胃管再建か,結腸再建か。再建ルートは。術後鎮痛の注意点は。呼吸管理を一時的に施行するなら,人工呼吸管理の基本を思い出そう。ならば,食道癌も胃癌も乳癌も,どれも同じか。あるいは,良性疾患の手術と同じか。難問である。
冒頭のような質問に私は,“CABGを予定した症例に悪性腫瘍が見つかる場合は,どのくらいある?胃癌の術前患者に,高血圧,糖尿病や虚血性心疾患の疑いや軽度の腎機能障害が認められるのは,どのくらいある?”と聞き返すことにしている。
病気の種類や手術の大小にかかわらず,手術はすべての患者にとって重大事象である。日々の手術・麻酔は,患者を中心に据えて,外科医,麻酔科医,看護師などが,円滑かつ安全に行われるように努力する共同作業であろう。麻酔は完璧と自負しても,手術が円滑でなければ何もならない。怖い年長の外科医であろうと,手術を円滑に進ませるために,外科医を手玉に取ることも必要である。いわば,お釈迦様と孫悟空である。そのため麻酔科医は,術式や術前の患者背景や合併症,はては外科医の気性や癖まで知り尽くすことも必要だろう。
余力のある諸氏は,以下の本誌バックナンバーも参考にされたい。
1995年(Vol.2, No.3),1996年(Vol.3, No.4),1999年(Vol.6, No.4, 7, 8),2001年(Vol.8, No.4),2002年(Vol.9, No.6),2004年(Vol.11, No.10)。
Copyright © 2011, "MEDICAL SCIENCES INTERNATIONAL, LTD." All rights reserved.