徹底分析シリーズ 麻酔薬は敵か味方か
成人の脳へ麻酔薬が及ぼす影響とその機序:イソフルランが使われなくなったその理由は
尾崎 眞
1
OZAKI, Makoto
1
1東京女子医科大学医学部 麻酔科学講座
pp.1060-1063
発行日 2010年11月1日
Published Date 2010/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3101101065
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全身麻酔薬,特に吸入麻酔薬の作用は可逆的であり,身体に及ぼす不可逆的影響はほとんどないものと信じられてきた。少なくとも多くの麻酔科医は,今でもそう考えているだろう。だからこそ,究極の吸入麻酔薬がもつべき特長として,体内変化率または代謝率が低いことが挙げられ,低ければ何も悪さをしないで,そのまま身体の外に出てくるだけだと考えた。そのいわばセントラルドグマにどっぷりと浸かり込んだ結果,たどり着いた究極としてデスフルランが挙げられる。代謝率わずかに0.3~0.5%と,ほとんどが未変化で体外にそのまま排出されるデスフルランが臨床現場でも重視されたのは,代謝されなければ身体には作用が少ないという思い込みからだろう。
しかしここ数年,発達段階の脳や高齢の脳に対して麻酔薬が永続的障害を残す可能性があることが,主に動物実験で報告されてきた。この麻酔薬の中枢神経毒性の機序はまだまだ不明な点が多く,動物実験レベルにとどまるにすぎないのも事実であるが,少なくとも幼弱な発達段階である脳に対しての毒性機序と高齢者脳への毒性機序は異なるようである1,2)。
幼小児の脳に対する神経毒性については別稿で述べられるので,ここでは高齢者の脳に対する麻酔薬の中枢神経毒性について検証する。
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