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麻酔科医ならば少なくとも一度や二度,麻酔導入時にマスク換気困難や気管挿管困難といったいわゆるdifficult airwayの患者に遭遇し,悪戦苦闘の末,やっとのことで気道確保に成功したり,あるいは麻酔から醒ましたりして,何とか不幸な転帰に至らずにすんで,ほっと胸をなでおろした経験を持っていよう。麻酔の怖さを味わい,何とか自分の身も守ってくれた先輩麻酔科医に感謝するとともに,自分の非力を痛感した経験はないだろうか?
difficult airwayの患者で気管挿管もマスク換気も不可能な場合〔can't intubate, can't ventilate(CICV)〕,その発生頻度はきわめてまれだが,死亡や不可逆的脳障害といったきわめて深刻な合併症が起こりうる。実際は,このような事態に至らなくとも,対応を一歩誤れば最悪のシナリオに発展したかもしれない症例(表面に出てこない)がかなりあるのではないだろうか?
全身麻酔を安全に行うためには麻酔導入時の適切な気道管理が必須であり,事前に周到な気道管理計画を立てて麻酔導入時の気道のトラブルを未然に防ぐとともに,緊急事態が発生した場合は適切に対処することが必要である。このため,米国麻酔科学会(ASA)は1992年に「Difficult Airway患者の管理のための実践ガイドライン(Practice Guidelines for Management of the Difficult Airway)」1)を公表した。その後,フランス,カナダ,イタリア,イギリスなどの諸外国でもガイドラインが出されている。残念なことに,日本ではこのようなガイドラインはなく,各施設あるいは各麻酔科医がそれぞれの経験にもとづいて気道管理に対処してきたのではないだろうか?しかし,最近になってようやく,危機管理の面からdifficult airway患者の気道管理についても日本の麻酔科医の間で広く関心が高まってきた。
本稿では,ASAの2003年版のガイドライン(以下,ASAガイドライン)2)とイギリスのDifficult Airway Society(DAS)が2004年に出した“Difficult Airway Society for management of the unanticipated difficult intubation”(以下,DASガイドライン)3)をもとに,気道管理,特に麻酔導入時の気道確保の進め方について考える。なお,これらのガイドラインの詳しい解説は他誌4,5)を参考のこと。
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