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大脳皮質を侵すような広汎な脳疾患における大脳神経病理過程に随伴する精神症状の記載にはまだ不完全なところがある。はっきりと症候群として把握されずに,ばらばらでそれだけではとくに意味のない個々の症状の羅列で満足するか,あるいはそのような概念では事態が歪んで不正確にしか表現されないような,近縁の症候群名を臨時に借りてくることを余儀なくされている。
精神活動の全体が広範に阻害されると同時に必要不可欠な脳幹の植物神経調節が保たれているような特定の形態に対して,われわれは"催眠症候群"(hypnoide Syndrome)という概念を用いる。その高度な場合は周知のごとく"昏睡"と表現し,より軽度のものは"傾眠","昏蒙"などというように,量的に段階づけ得る一連の名称がある。もし"意識"という言葉がそれほど多義的なものでないならば,それらをまとめて狭義の"意識障害"と一括することもできよう。原因的にみれば,この群の原型は脳に毒素が充満したさいに起こる病理—生理学的障害に求められる。正常生理学的には疲労素に対する睡眠反応がこれに対応する。催眠群に属するすべての現象において本質的なことは,深い病的睡眠状態にいたるまでの各種の程度の意識の"清明さ"の低下のために,覚醒・睡眠調節(Wach-Schlafsteuerung)の障害が含まれていることである。主観的事態で本質的なことは,常に体験がただ単純に全般的に暗く,そしてぼんやりとなり,後に想起の混乱や健忘が残ることである。これを明確に示すことができない時でも,"意識混濁"という表現を厳密に用いるとするならば,客観的には少なくとも一時的か暗示的に運動系における傾眠症状が,顔面では眼瞼下垂,あくび,呼吸状態や頭部の血管運動系の変化として現れるか,一時的にせよ失見当を認めることが必要である。そしてこれに伴って受動的,無目的で夢をみているような運動現象(せん妄)や,注意の逸脱(アメンチア)があってもよい。
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