症例検討 よくある症例の麻酔
降圧薬を服用し忘れたのですがという症例:周術期の血圧と心拍数の安定化は短時間作用性β1遮断薬で
土田 英昭
1
Hideaki TSUCHIDA
1
1金沢医科大学 侵襲制御学部門
pp.64-66
発行日 2008年1月1日
Published Date 2008/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3101100014
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
症例
67歳の女性。総胆管結石に対して開腹術が予定されていた。10年来,高血圧に対してβ遮断薬とカルシウム拮抗薬を内服している。普段の血圧は150/90mmHg程度で,コントロールは良好ではない。術前回診で,手術当日朝も通常どおり降圧薬を内服するように指示してあった。しかし,術前には食事も水分も摂ってはいけないと思い,薬は服用しなかった。手術開始予定は,午後1時であったが,12時に前投薬を処置する際に血圧を測定したところ190/100mmHgと血圧が上昇していた。同時に軽度の頭痛の訴えもあった。主治医より予定通り手術を開始してもよいか,問い合わせがあった。
この症例にどのように対応する
予定通りに手術をする。通常,高血圧患者で予定手術の延期を考慮するのは,拡張期血圧が110mmHg以上の重症高血圧症例とされている1)。この患者の場合,普段の血圧は150/90mmHgと拡張期血圧が低いので,手術を延期するまでの必要はない。手術当日に血圧が上昇したのは,降圧薬を服用しなかったことに加えて,心理的な要因によるものが影響しているものと考えられる。
高血圧患者は正常血圧患者よりもストレスに対して血圧が大きく変動することが多いので,術前には薬物による前投薬だけでなく,心理的な「前投薬」も必要となってくる。術前回診時,患者とのコミュニケーションを十分にとり,心理的ストレスを減らす努力を怠らないことが重要だ。
Copyright © 2008, "MEDICAL SCIENCES INTERNATIONAL, LTD." All rights reserved.