印象記
ロンドンだより
遠藤 実
1
1東大医学部薬理学教室
pp.209-210
発行日 1963年8月15日
Published Date 1963/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425906287
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Robert Browningの詩に,外国にいて故国イギリスの春を想い,その美しさを讃美したものがありますが,たしかに英国の春はすばらしいものです。それまでの冬が余りにも暗く,うつとうしかつただけに対照の妙が発揮されるということもあるのでしよう。とにかく4月になると,冬中はほとんど顔を見せなかつた太陽が惜しげもなく光を降り注ぐ下で,丸ぼうずだつた木々はすつかり新緑でおおわれ,家々の窓や前庭には色とりどりの花が咲いて,一時に目もさめるばかりの状態になります。自分の住んでいる見慣れた平凡な街がこんなにも色彩に富んで美しいものだつたか,とあらためて感心したりしたものでした。それにしても,あの冬の陰鬱さは,寒いとは言え毎日日本晴れのすがすがしい冬しか知らない私には驚きでした。彼らの粘り強さも,こんな冬を毎年辛抱強く過ごして来たところから培われてきたのかも知れません。
ロンドンに来ての第一印象は,東京よりもむしろ田舎だという感じさえするということでした。タクシーの型の古いのは有名ですが,街を歩いていると,ときどき博物館から出て来たかと思われるような車が堂々と走つているのも見かけます。地下鉄網がよく発達しているのには感心しますが,車体は外見も内部も日本のものの方がずつとスマートですし,こちらのは横揺れがひどく,時には乗つていて気分が悪くなることもあります。
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