エトランゼ
ロンドン日記から(3)
常田 正
pp.1307
発行日 1986年11月1日
Published Date 1986/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543203918
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×月×日.電車の前の席に座った白人の青年がすぐに話しかけてきた.「日本から来たのですね.」「そうです,どうしてわかりますか.」「僕は日本にしばらくいたことがあるので日本人は見てすぐわかります.」「君はアメリカ人ですね.」「そうです.でも今は西ドイツにいます.」「西ドイツで何をしているのですか.」「米軍基地の中のハイスクールで地理の教師をしています.」「地理の先生なので旅行が好きなのですね.」「いいえ,旅行が好きなので地理の教師になったのですよ.」「今日はどちらまで.」「今日はストラットフォードのシェイクスピアの生家を見物に行き,6時までにロンドンへもどらねばなりません,芝居見物があるのです.」「私もシェイクスピアの家まで行きます.」「それはよかった,一緒に行きましょう.」…終日青年と行動を共にする.
×月×日.ウエストミンスター寺院に墓碑銘の写真をとりに行った.人が込んでいたのですくまで待っていると,日本人の観光旅行団がぞろぞろ入って来た.若い女性のガイドが職業的な口調で日本語で説明している,ロンドン在住の日本人がアルバイトで案内しているらしい.なかのひとりに声をかけてみた.「どちらからいらっしゃいました.」「大阪からです.」「今日はどこへ泊るのですか.」ガイドの声がする,「はなれずについて来でください.」「これから何処へ行くんですか.」男は答えようとして一瞬ためらったが,迷い子になっては大変と慌てて群の中にすべりこむ.集団は鳥の群のように飛び去って行った.
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