特集 生物々理—生理学生物々理若手グループ第1回ミーティングから
巻頭言
萩原 正長
1
1東京医科歯科大学医学部生理学教室
pp.219
発行日 1962年10月15日
Published Date 1962/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425906248
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自然科学が進歩してくると,その各々の分野だけの従来の知識からは解決できない問題が多く出てくるのが一般である。私どものやつているBiophysicsの領域ではもともと境界領分の分野であるだけにこの事は一層著しい。例えば細胞膜に於ける電位の発生の問題等では従来無生物を対象とした物理化学の研究から行われた知識からは説明できない事が多く出てくる。之はこの問題に関係した物理化学の理論が多くは熱力学的な平衡に於ける問題として研究されており生物に於けるような不可逆変化の問題には不充分であることによつている様に思われる。現在米国に居られるT博士はこういつた問題に関連して多くの物理化学者と協力して不可逆変化としての細胞膜の電気現象を研究していられるが,その様子は生物膜の研究の一歩前進が物理化学の一歩前進によると同時に逆に物理化学の進歩が又生物膜の研究の進歩によつている事を如実にものがたつているように思われる。最近になつて我が国にも新に生理物理の学会が生れ,この生物物理はBiophysicsとは必ずしも同一ではないように思われるが,こういつた方面の知識交換が非常に進むようになつた事は誠に喜ばしい事と思われる。しか一般には違つた分野の研究者が協同して研究する事は必ずしも容易には行われない。之には研究施設に於ける制度の問題が大いに関係しているのかもしれない。
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