特集 死生観が問われる時代の医療
巻頭言
広井 良典
1
1千葉大学法経学部
pp.501
発行日 2010年7月1日
Published Date 2010/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541101724
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少し前に『千の風になって』という歌がヒットしたり,映画『おくりびと』がアカデミー賞を受賞して話題となるなど,死生観というものへの人々の関心が高まっていることは言うまでもない.このことは,経済成長の時代を生き抜いてきたいわゆる「団塊の世代」の人々が退職期を迎え,老いそして死というテーマに直面していくこれからの時代において,一層顕著になっていくだろうし,若い世代の間でも生や死の意味づけに関する関心が高まっていると感じられる.
他方で,年間の自殺者数が12年連続で3万人を超えたことが先般明らかになり,そうした課題が深刻であり続けるなどの閉塞的な時代状況の中で,「生きること」への積極的な支援や意味づけが求められている.死生観というテーマは,一方でターミナルケアというテーマと深く関わるが,同時に,そのような生に向けた支援という課題とも不可分である.一見すると,ターミナルケアなどにおいて問われているのは「安らかな死」あるいは「死の受容」という課題で,他方,自殺予防などをめぐる課題が「生」に向けた援助であるとすれば,両者は表面的には逆のベクトルを向いているように見えるが,充実した生と安らかで尊厳ある死という二者は,むしろ表裏一体のはずのものではないか.本企画に関する編集委員会での議論でも,ターミナルケアと自殺問題は,一見別の領域のテーマのようにも見えるが,尊厳が守られない生と死,あるいは命が軽いものとして扱われている時代という点で共通の根を持っているのではないかという指摘が出された.
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