第38回日本生理学会シンポジウム総括報告
(5)神経系における抑制と促進の機構
大谷 卓造
1
1京都大学医学部生理学教室
pp.183-186
発行日 1961年8月15日
Published Date 1961/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425906195
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本シンポジウムは神経系に於ける抑制と促進の機構の第1部をなすものである。第2部,第3部と比較してその特徴と考えられる点は,抑制・促進の機構を単一ニウロンのレベルで考えるという点にあるかと思われる。時間の制限のため,この日の論題は中枢神経系,それも脊椎動物の中枢神経系に限られた。話の順序として従来から知られている事実を簡単に紹介すると,先ず第1に脊椎動物の中枢神経では現在確認されているシナプス伝達はすべて化学的伝達であるということ,即ちシナプス前の神経衝撃によつて遊離された伝達物質の作用で興奮性のシナプス電位(EPSP)或は抑制性のシナプス電位(IPSP)が細胞体に発生することによつて,細胞体の活動の促進なり抑制なりが起るということである。このようなシナプス電位の発生機構は,細胞内電極の適用によつて脊髄の運動ニウロンへの伝達について詳しく研究されている。また脊髄ではIPSPを伴わない抑制機構の存在することもremote inhibitionという名で知られている。一般に膜の脱分極は促進的にはたらき,過分極は抑制的にはたらくという点は,末梢神経で古くから知られている電気緊張と同じ原理である。また過度の持続的な脱分極は細胞の不活性化を招くことが末梢神経では古くから陰極抑圧作用として知られているが,同じ作用による抑制が小脳のプルキニエ細胞で起ることも見出された。
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