綜説
組織蛋白の研究
中村 正二郞
1
1山口縣立醫科大學蛋白化學研究所
pp.98-105
発行日 1952年12月15日
Published Date 1952/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425905683
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1.蛋白質代謝の諸問題
蛋白質が生體,細胞を構成する基礎物質であることは今日もはや疑問を許さぬ事實として承認されている。しかし蛋白の代謝に關する研究は,消化(或は蛋白分解)を除いては,粗大な巨視的或は生物學的段階に止まつている。蛋白代謝の名を冠せられるのは蛋白を構成するアミノ酸の代謝の領域であると言つても過言ではない。
ところで蛋白質が生體或は細胞を構成する物質であるというのはどの様な意味であろうか。一體,細胞は蛋白によつて構成され,これに對して糖類,脂肪等は燃焼によつてエネルギーを供給するという表現は,例えばボイラーと燃料との關係の樣な機械的關係を連想させる危險がある。生體が異化と同化の動的平衡によつて生存しているとすれば,生體内には單なるBrennstoff或はWirkstoffがないと同樣に單なるDaustoffもあり得ない。このことは例えば典型的な燃燒物質とみなされるブドー糖について見ても明かである。血中の糖は普通には燃燒物質たる糖が運搬される形だと考えられているであろう。しかし糖が單に燃燒物質としての意味だけしかもたないとすれば,體外からの供給を斷つた場合にもなお血糖値が一定に保たれることは理解されない。更に血糖値が一定以下に低下すれば生命の危險をさえ伴うのである。その一定以下の減少が生命の危險を伴い,それを一定に保つために他のものが消費されている樣なものこそ正に構造物質であると言わねばならない。
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