論述
心臓の新陳代謝に關する研究
橋本 虎六
1,2
1東京大學醫學部藥理學教室
2東京大學醫學部藥理研究會研究所
pp.251-258
発行日 1952年6月15日
Published Date 1952/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425905654
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Ⅰ 序
心臓の研究は醫學の最も古い課題に屬する。しかも今日尚旺んに追求されて居るものゝ一つでありいつの時代に於ても醫學の中心課題をなして居る。結局,心臓の機能の如何が臨床に於ける生死の運命を決する場合が多いから,絶えず心臓研究に對して拍車が加へられる結果であらう。歐米に於てはこの方面の研究に對して強力な財團の後援があり,專門誌の刊行があるばかりでなく,生理學,生化學,藥理學の專門誌に業績の發表が相次ぐ有樣である。この樣に各方面から追ひ廻してしかも尚我々に研究すべき餘地があるのであらうか。筆者が,心臓の研究を始める時に,やらうかやるまいか甚だ迷つた第一の事は研究の見通しであつた。心臓は研究の對象として取りつき易いのは一見して誰れにでも判る。しかし取りつき易いと思はれる範圍に於ける,心臓機能の研究は,殆ど重箱の隅をほじり出す位になされて居て,新に研究すると云つても高々追試に過ぎない。生物學に於ける色々な説各種の藥物,各種の研究方法が新しく發表されれば,殆ど必ずと云つて良い位,心臓への應用が先づ試みられて居る。であるから,餘程の斬新な考へをもたない限り,手取早く道具立の出來る範圍内での研究は餘り學界に寄與する事は多くない。心臓研究を歴史的に見ると,現世紀に入つて大きな二つの頂上がある。一つはEinthovEnに始まる心電圖,他はStarlingに始まる動いて居る心臓の呼吸に關するものである。
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