隨筆
オリムピツク競技
pp.7
発行日 1950年8月15日
Published Date 1950/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425905523
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今年も早や夏が來た.私は元來スポーツに興味を持たないものであるが,昨年の夏,日本水上選手が渡米して世界新記録をつくつた時には人後に落ちず快哉を叫んだのであつた.
國際競技というと私が想い出すのは米國の生理学者W. B. Cannonの“Bodily Changes in Pain,Hunger,Fear and Rage”(1936)中の一節である.いうところの大意は
“感情の激しい時,噴怒,恐怖,Rage等で同じような内臓反應が起る.これらの感情は亙換できるのぢやなかろうか.戰爭は人類の生物的本能に根ざし,剛毅忍耐・犠牲の精神・身体の剛健等がそれによつて保持されるとなす人もあるが,近代の戰爭はあまりにも惨忍を極めるようになり,人は之を嫌惡して家庭の幸福を求め,美を愛し,学問に貢献せんとし,社会正義を貴び,貧困・疾病を絶減せんとする願望を強めるに至つた.医学者は己が仕事に誇を感じ愈々文化的精神を高揚す可きである.某氏は道徳的代替物を以つて戰爭に替えしめんと説き,教育を高め文化に於て優れる事が眞に國民の誇である事を知り,剛毅・犠牲の精神をもつて人類の苦痛・罪惡・疾病と戰うものが眞の英雄である事を諒解せしめよという.更に又身体の剛健,抵抗力等を保持して柔弱・放縦等に堕せざるためには,文明諸國のスポーツが十分其の目的に適い,而も人類の本性に根ざす競爭心もここに代償昇華せしめられる.
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