卷頭
吾等はすべてを失つてはいない!
熊谷 洋
1
1東大・藥理學教室
pp.224
発行日 1950年3月15日
Published Date 1950/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425905497
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古來神秘不可思議と見做されていた生命現象も,之を一應機能的にContraction(筋收縮),Conduction(興奮性組織に於ける衝撃の傅播及び傅導),Concentration(分泌腺に於ける分泌乃至排泄),並にChemical reactionの4大要因に分柝することによつて始めて實驗科學の對象となつた。從つて生體の科學的研究に於ては實驗方法—一般的に云えば科學技術—が決定的な重要さをもつ,事實,生體の科學發展の歴史は,實驗方法發達の歴史であると見做しうる。この重要な科學技術は今次世界大戦を契機として飛躍的な發展をとけた。そしてその世界的な成果は,昭和幕府の崩壞に代つて,登場した占領軍當局の好意によつて,或は印刷物を通し或は直接的な海外視察團の派遣の結果或は又指導的學者の來訪等によつて吾が國に潮の如き勢をもつて導入された。その成果は實に絢爛たるものがあり而もそれが極めて吾等に身近に感ぜられるに至つたことは吾等科學者にとつては寔に幸なことである。殊に羨望おく能はざるものはぼう大な經濟力を背景とする研究者の集團的組織である。經濟力の微弱な吾が國に於ては倒底望むを得ない組織にはちがひない。けれども,米國に於ける該組織は單に經濟力の強大さのみに歸因するものでないことを充分反省すべきであらう。
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