Japanese
English
解説
形態形成の理論—とくに細胞分化のモデル
Theory of morphogenesis: Models for cell differentiation
鈴木 良次
1
,
真島 澄子
1
Ryoji Suzuki
1
,
Sumiko Majima
1
1大阪大学基礎工学部生物工学教室
pp.299-305
発行日 1976年8月15日
Published Date 1976/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425903134
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
生物学において形態形成という言葉の定義は必ずしも明確でない。一般的には「のう胚形成以後の造形運動に基づく,組織や器官の,かたちづくりを意味する」1)とされている。現在,発生現象の分子的基礎はかなりわかつているとはいえ,解明されていない部分も多い。したがつて,なお,発生学独自の言葉によつて,形態形成の分析を行なうことの意味がある。たとえば,形態形成の場とか,誘因物質の濃度勾配などの概念が,その理論化の試みの中で有効に用いられている。
ところで,生物の発生過程で,構造タンパク質や酵素タンパク質の合成が,遺伝情報に基づいて行なわれていることはわかつている。また,遺伝情報はどの細胞にも同じように含まれている。しかも,細胞によつて異なつたものに分化していく。この理由は一体何か。それを説明するものとして,細胞内の特殊物質の分布が考えられている。つまり,特殊物質を含んだ細胞質という環境が遺伝子と相互作用して,いく通りかの可能性のなかから,特定の遺伝情報の発現を許すという考えである。この考えに従えば,同じような細胞の集りに対し,その中に特殊物質の空間的分布を与えてやると,それぞれが異なつた分化をとげ,全体として一つの空間的構造をつくり上げることになる。
Copyright © 1976, THE ICHIRO KANEHARA FOUNDATION. All rights reserved.