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特集 生体の科学 展望と夢
展望と夢
免疫学への夢
Expectations to modern immunology
山本 正
1
Tadashi Yamamoto
1
1東京大学医科学研究所制癌研究部
pp.52-57
発行日 1974年2月15日
Published Date 1974/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425902978
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はじめに
もう30年近くも前のことになつた。ある日のこと,東大医学部長であり,私どもの研究所(伝研といつた)の所長でも研究部長でもあつた田宮猛雄先生が研究室にこられたことがある。これからレプラ菌培養の標本をみにゆくことになつているから一緒に参りましようとさそわれたのである。お伴してゆくと,先生は顕微鏡下に染色標本を眺めながら『これは培養基に移して早い時期のものですかな』という風に,ほとんどの標本のおよその培養期間を当てられるのであつた。研究室に戻つてから『生きがよい』とか『悪い』とかいわれても,私ども若輩には何も申せないといささかは不服を申上げると,『曰く云い難しMorphologische Kenntnis!』とプツリとおつしやる。『腐つても鯛』ともいわれたようにも記憶する。
先生には故太田正雄教授らが種々培養を試みておられた頃,ご自分でも例によつて秘かにやつておられた経験もおありだつたろうし,何よりも細胞内増殖性の恙虫病病原体Rickettsia orientalis命名に至る長年の組織だつた研究の中に培われていた,その当時においてはそれこそ唯一の方法でもあつたであろう,形態を通しての微生物に対する眼識とでもいうべきものが,あの戦後の多忙な大学業務の中にあつても,脈打つていたのであろうと,いまさらながら敬服の念にかられるのである。
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