巻頭言
ライフ・サイエンスの時代をむかえて
渡辺 格
1
1慶応義塾大学医学部
pp.101
発行日 1971年6月15日
Published Date 1971/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425902890
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最近,わが国でもライフ・サイエンスの重要性がやつと認められ,科学技術会議でもそれを70年代の重要科学技術政策の一つとしてかかげるようになつてきた。前々から私たちは,20世紀後半から21世紀にかけて生命の科学が大きく躍進すること,そのために備えて教育・研究体制を早く整える必要性を主張してきたが,ともかく生命の研究が一般にも重要視されてきたことは喜ばしい。
分子生物学は,物質の学問と生命の学問との間の溝を橋渡しをして,自然科学の統一に大きく貢献してきた。現在,分子生物学は人間という物質機械の生命現象の解明を目標とする,第二の本格的な発展期をむかえつつあり,多くの分子生物学者の関心も人間の脳の働きにむけられている。分子生物学は,生命現象の物質的かつ論理的解明をすすめるものであり,必然的に生命をコントロールできる技術の開発を可能にする。このような技術は当然われわれに幸福をもたらすことを目的とするはずであるが,残念ながら生命とくに人間生命の実体は現在まだ不明であり,思いがけない危険をもたらすおそれもある。それを考えると,分子生物学的研究が独走することは好ましくなく,ライフ・サイエンスというような大きな立場の中で正しく位置づけられることがきわめて重要であると思われる。
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