研究の想い出
不減衰学説の回顧
加藤 元一
1
1慶応大学
pp.141-149
発行日 1968年6月15日
Published Date 1968/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425902773
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1.新発見は受け入れ難いもの
1616年4月17日William Harvey(1578-1657)がロンドン医学校の演壇に現われた。これは生理学にとつて正に記念すべき日である。この時初めて「血液は循環する」と発表されたのである。この日まで血液がからだ内を循環するものだとは世界中ただの一人も思つていなかつた*。古く,HippocratesやGalenの思想に支配されて,血液はあたかも潮の干満のごとく「さしたり,引いたり」するものだと信じられていたのである。これが有史以来の大発見で,生理学は正にこの日から始まつたといつてよかろう。しかし当時これを信ずるものははなはだ少なく,報いられたものは疑惑と非難のみで,彼はその論文を国内で印刷に付することさえできなかつたのである。なおその後約100年もたつてから,この血液循環論に反対する講演を知名の学者**がロンドンにおいて行なつた記録が残つている。
今や小学校の児童さえ知つているこのような明々白々たる事実さえなお斯くのごとし。以つて新発見がいかに世に受け入れられ難いものかを知るべきである。
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