特集 現代医学・生物学の仮説・学説
6.免疫学
免疫系の進化
黒沢 良和
1
1藤田保健衛生大学総合医科学研究所
pp.568-569
発行日 1993年10月15日
Published Date 1993/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425900647
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概説
免疫系は体液中を流れる物質(細胞を含む)を自己成分とそれ以外(非自己)の成分に見分けて,個体の生存にとって都合の悪いものを除去する生体防御機構である。この自己非自己識別に中心的役割を果すのは,抗体,T細胞レセプター,主要組織適合性抗原(MHC)分子である。
抗体およびT細胞レセプターは,分子の中にアミノ酸配列の変異性に富む変異(V)領域と一定の構造をした定常(C)領域を含む。この多様性は,V領域をコードする遺伝子が,V,(D),Jといった断片化された2~3個のDNAに分れてコードされており,B細胞およびT細胞への分化途上,V-(D)-JというDNA再編成がおこることによって作り出される。一方,MHC分子は多型性に富む分子である。MHC分子にはクラスⅠとクラスⅡという2種類含まれるが,いずれも約9アミノ酸残基からなるオリゴペプチドを結合する能力があり,MHC分子が多型であることにより,その結合されるオリゴペプチドのアミノ酸配列がMHCの型ごとに異なることになる。オリゴペプチドを結合したMHC分子は細胞膜上に発現され,それをT細胞レセプターが認識するが,T細胞は胸腺中であらかじめ選別を受けており,その結果,自己非自己識別が成立する。以上のような免疫系は脊椎動物のみ有する生体防御機構であり,多様な分子集団である抗体とT細胞レセプター,さらに多型性を有するMHCの存在があってはじめて意味をもち得る。
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