特集 生物進化の分子マップ
1.ゲノム
遺伝子レパートリーの進化―脳・神経系の進化過程
五條堀 孝
1
,
野田 彰子
1
Takashi Gojobori
1
,
Akiko Noda
1
1国立遺伝学研究所生命情報・DDBJ研究センター
pp.344-346
発行日 2006年10月15日
Published Date 2006/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425100255
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1995年に,Haemophilus influenzaeの完全ゲノム配列が生物として初めて解読決定されてから現在まで,実に350種以上の生物の完全ゲノム配列が決定され,また大規模な完全長cDNA配列決定プロジェクトがヒトやマウスで進行している1)。このような完全ゲノム配列を用いた研究は,これまで遺伝子レベルで行われてきた分子進化の研究をさらに進めて,個々の生物の特徴と系統進化を浮き彫りにするだけでなく,一つの遺伝子の進化を見るだけではわからなかったような,生物のもつ多種多様なシステムの起源とその進化過程の検証を可能にしていくものと思われる。このような検証を可能とする完全ゲノムを利用したアプローチには,大きく二つの視点が考えられる。一つは,遺伝子の並び方などゲノム構造を生物種間で比較することで,ゲノムのダイナミックな進化をみるという視点である。もう一つは,ゲノムに含まれる全遺伝子セットの生物種間比較から,生物がもっている遺伝子のレパートリーがどのように変化してきたかを見るという視点である。前者の視点は,すでにいくつかの報告例も出てきているが,後者の視点ではまだ殆ど手つかずの状態になっている。そこで本稿では,後者の視点である全遺伝子セットに注目し,生体システムとしては難解ではあるものの非常に興味深い脳・神経系の進化過程を調べたわれわれの最新の研究を一例として紹介する。
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