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獲得免疫は極めて高い特異性と記憶の存在により,自然免疫と区別される。非自己の認識は,自然免疫が病原微生物に固有の分子パターンを個々に認識する受容体によっているのに対して,獲得免疫の場合は体細胞におけるDNA組換えにより高度の多様性を生み出す抗原特異的な受容体が使われている。獲得免疫において非自己認識の主役を担うリンパ球はT細胞とB細胞に大別されるが,両細胞の抗原受容体はイムノグロブリンスーパーファミリーに属する近縁な分子である。さらにT細胞受容体の場合は抗原を直接認識することができず,抗原がペプチドに分解されたあと,MHC(主要組織適合性抗原複合体)分子上に提示されてはじめて認識することが可能になる。T,B細胞の抗原受容体遺伝子や,その体細胞における組換えに必要な遺伝子,およびMHC分子の遺伝子などは,軟骨魚類のサメにはすべて揃っているが,円口類のヤツメウナギやヌタウナギのゲノム中には存在しない。従って,リンパ球とMHCが主役を果たす獲得免疫は,約6億年前に有顎脊椎動物の共通祖先で確立されたと考えられる。
最近,円口類の血球細胞の表面に存在し,やはり体細胞における遺伝子組換えで多様性を作り出していると考えられる分子が発見されて注目されている。VLR(variable lymphocyte receptor)と名付けられたこの分子は,T,B細胞の抗原受容体とは構造上の類似性は一切示さず,またこれまでのところ抗原認識に関わっていることを示す直接的な証拠も得られていない。実際にこの分子が獲得免疫と呼ばれるにふさわしい生体防御機構に関わっていたとすると,脊椎動物の進化の初期段階で獲得免疫系が独立に2回も出現してきたことになり非常に興味深く,今後の研究の進展が注目される。
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