特集 現代医学・生物学の仮説・学説
4.シグナル伝達系
一酸化窒素(NO)
戸田 昇
1
1滋賀医科大学薬理学教室
pp.514-516
発行日 1993年10月15日
Published Date 1993/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425900627
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概説
大気中に放出される窒素酸化物(NOX)が大気汚染の原因の一つとして古くより問題視されてきた。また,ニトロ化合物(ニトログリセリンなど)は長い歴史の中で狭心症治療薬としての評価を確立している。しかし,NOが生理活性物質としていちじるしい注目を集めるようになったルーツは,Furchgott1)の血管内皮由来弛緩因子(EDRF)の偉大な発見に求めることができる。彼はウサギの大動脈条片標本におけるアセチルコリンの弛緩作用が,内皮を除去すると消失すること,内皮を除いた標本に内皮を有する標本を接着させると弛緩が回復することから,アセチルコリンが内皮より血管平滑筋を弛緩する物質を遊離することを結論した。アセチルコリン以外にも多くの血管拡張物質にEDRFを遊離する作用が認められている。
その後の研究によって,EDRFは血管平滑筋を弛緩する以外に,(1)生物学的半減期は5秒程度ときわめて短いが,スーパーオキサイドディスムターゼ処置によって作用の持続は延長する,(2)酸性溶液中では安定であるが,アルカリになると速やかに失活する,(3)メチレンブルー(可溶性グアニール酸シクラーゼの阻害薬),ヘモグロビンおよび抗酸化剤の処置はその作用を消失する,(4)血小板凝集を阻害する,などが明らかにされた。非常に分解されやすいために,EDRFは化学的には同定されず,その定量には最近まで生物学的検定法に依存するしかなかった。
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