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内耳障害と一酸化窒素
工田 昌矢
1
1広島大学医学部耳鼻咽喉科学教室
pp.255-264
発行日 2002年4月20日
Published Date 2002/4/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1411902507
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はじめに
内耳は聴覚・平衡覚を司る器官であり,その障害は臨床的には難聴,めまいを引き起こす。内耳障害の原因には感染,騒音,耳毒性薬剤,代謝性疾患,遺伝,老化など様々なものが挙げられるが,その病態を細胞レベルでみた場合,特に感覚細胞の障害様式については,共通する点が数多く認められる。近年,分子生物学の内耳への応用が盛んとなり,内耳の病態について分子レベルでの解明がなされるようになり,内耳障害のメカニズムも徐々に明らかになってきている。一方,近年,各種生物学的分野において活性酸素,一酸化窒素(NO)に代表される,いわゆるフリーラジカルの病態への関連が注目されるようになり,内耳の病的変化にもフリーラジカルがかかわっていることが示唆されている。これまで内耳では,正常の状態では,NOが感覚細胞の神経伝達,血流調節,内リンパの恒常性の維持に関与していること,さらに感染などにより過剰のNOが産生された場合にはNOが細胞障害性に働き,病態を惹起することなどが示唆されており,同様に,活性酸素に関してもNOとの相互作用により内耳障害を引き起こすと考えられている。このような現象は広く難聴,めまいを引き起こす病態に共通したものと推測され,内耳の機能障害とNO,活性酸素との関連を分子生物学的レベルで解析することは現在のところ有効な治療法の少ない難聴,めまいの予防,治療に大きく役立つものと思われる。
本稿では,内耳障害の発現機構をフリーラジカル,特にNO,活性酸素との関連から述べるとともに,難聴,めまいの新たな治療法の可能性についても言及する。
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