特集 現代医学・生物学の仮説・学説
1.細胞生物学
ストレス蛋白質
矢原 一郎
1
1(財)東京都臨床医学総合研究所
pp.436-437
発行日 1993年10月15日
Published Date 1993/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425900601
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概説
Ritossaは,キイロショウジョウバエ幼虫を高温にさらすと,多糸染色体のパフの出現位置が著しく変わることを発見した(1962)。当時,新しい細胞学の研究者は染色体の遺伝子発現とパフの出現が関係あるものと考えていたので,この発見は注目された。やがて,キイロショウジョウバエをはじめとする生物で,個体,組織そして細胞を高温やエタノール,遷移金属などの有害な物質にさらすと,数種類の新しい蛋白質の合成が誘導されることが見いだされた。これらの蛋白質がストレス蛋白質であるが,当時の実験では高温処理つまり熱ショックがもっとも使われたので,熱ショック蛋白質といわれていた。ちなみに,ストレス蛋白質HSP70やHSP90というのは,それぞれ分子量70,000と90,000のheat shock proteinという意味である。
やがて,それぞれのパフがどのストレス蛋白質に対応しているかも明らかにされた(1970年代後半)。次いで,ストレス蛋白質の遺伝子発現を支配するプロモーター領域にあるcis-acting element(HSE)と,それに結合する転写因子HSFの研究が非常に盛んになった。
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