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酸素運搬,薬物代謝,光合成など,生命機能を実現する多くの化学反応には,鉄や亜鉛,銅といった微量に存在する金属が必要であることはよく知られている。生体内に存在するこれらすべての金属を合わせても,その存在量は重量比にして1%にも満たないが,ヒトの体内には,鉄結合タンパク質が約400種,亜鉛結合タンパク質が約3,000種,銅結合タンパク質が約50種存在すると推定されている。にもかかわらず,ヘムタンパク質やZnフィンガータンパク質のように,金属結合タンパク質として研究されてきたタンパク質はごく少数で,ほとんどのタンパク質は,金属との結合は意識されずにその機能が議論されている。
生体内金属動態に関わる分子として,金属イオンを細胞内に取り込む膜タンパク質(トランスポーター)や,細胞内で金属イオンを運搬するタンパク質(金属シャペロン)が,1990-2000年代においてモデル生物を用いた遺伝学的解析を中心に数多く同定された。その後,生体内で特異的に金属を検出できる蛍光プローブの開発が進み,金属動態の理解は飛躍的に進展した。これらの進展と同時に,生命現象において重要な役目を担う微量金属の作用や細胞内動態をタンパク質レベルで解析できるようになり,分子・細胞・個体レベルでの金属の役割を議論できる素地が確立されつつある。一方で,亜鉛過剰が銅欠乏を引き起こし,その結果鉄欠乏(貧血)となるように,多くの金属はお互いに影響を及ぼし合っていることも示されることとなり,結果として,幾つもの問いが新たに現れてきた。「細胞内では,これら多数の金属結合タンパク質の機能を,必要に応じてどのように正しく制御しているのであろうか?」もその一つである。生命金属研究は,様々な生命現象を真に理解するには避けて通ることのできない普遍的な問いへの挑戦であり,今まさに進展させるべき研究領域となっている。
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