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今回の特集は“ヒトの未病”を対象としています。ヒトはなぜ,どのように病気になるのか,というのはわれわれの根源的な問いであり,その解明に向けた研究は以前から活発に行われてきました。医学,生物学,疫学など,様々な研究アプローチを通じて,疾患の発症に関わるリスク因子の同定は一定の成果が得られていますが,ヒトの一生を通じて,これらのリスク因子がどのように相互作用し,健康状態から病気の発症に至る動的過程をたどるのか,つまり“いつから,どのように病気になるのか”という肝心の事象は,わからないことが多いままです。この問題の解決のためには,病気になる一歩前の段階,すなわち“未病”の状態を解明する必要があります。しかしながら,これまでにヒトの病気を対象とした様々な研究が展開されてきましたが,未病の研究については,その重要性に比べて解明が遅れている状況が続いていました。その背景には,数理解析などを中心とした数理研究と医学研究の融合という,今までにない共同研究体制が求められるという点も課題であったかと思います。
このような状況を受け,未病を数理の観点から解明し,多彩な学問領域を横断的に融合して,健康社会の実現へとつなげるべく,2020年に合原ムーンショットプロジェクトが,内閣府ムーンショット型研究開発制度・目標2(祖父江元PD,若山正人SPD)のプロジェクトとして立ち上がりました。そして,複雑臓器制御系の数理的包括理解を実現するための数理データ解析や数理モデル解析などの数理科学的・数理工学的研究が進んでいます。2050年に,臓器間ネットワークを複雑臓器制御系として包括的に理解し,超早期精密医療へ応用することで,疾患の超早期予防システムが整備された社会の実現を目指すものです。「自分は,いつ,どんな病気になるのだろう? その病気をどうやって予防できるのだろう?」という根源的な問いに応えることのできる,真の個別化医療の実装が待ち望まれています。その実現に向けて,数理研究から,医学研究,オミクス解析研究,データベース研究,ELSI研究まで,幅広い分野における新進気鋭の専門家が集まり,日々活発に議論しながら,研究が進んでいます。プロジェクト開始から2年ほどが経過し,それまでは想像もしなかった異分野の研究者間の相互作用と,早くも興味深い研究成果の創出が得られています。
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