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ノーベル生理学・医学賞を受賞したPaul Nurse(ポール・ナース)が2021年3月に「What is Life?」という本を刊行しました。ご存じの方もいらっしゃると思いますが,「What is Life?」というタイトルは,物理学者のErwin Schrödinger(エルヴィン・シュレーディンガー)が1944年に書いた同じタイトルの本へのオマージュを込めてつけられたものです。この間,遺伝子の実体の発見,分子生物学の勃興,ヒトゲノムの解読,ゲノム編集技術の発展など,生命科学を取り巻く状況は目まぐるしく変化してきました。更に,ビッグデータやAI,デジタルトランスフォーメーション(DX)など昨今の情報科学の隆盛のなかで,膨大なデータが蓄積されてきた生命科学研究も新たな展開を迎えるものと思われます。
さて,こういった状況において,生命科学の研究者はどうやって生命現象を理解すればよいのでしょうか? 今後の生命科学研究のあるべき1つの方向性は,“定量性”だと筆者は考えます。生物物理学は,Schrödingerの時代よりも前から生命現象を物理的に扱ってきた学問で,そこには定量性を志向する考え方が根づいています。日本は伝統的に生物物理学が盛んで,これまでに素晴らしい成果が幾つも発表されています。生物学者のNurseがSchrödingerへのオマージュを込めた本を刊行したのも,こうした研究展開への期待感を映したものかもしれません。事実,彼の本には,「情報としての生命」という章を設けて,情報や数理生物学の重要性を説明しています。奇しくも,2019年10月から新学術領域「情報物理学でひもとく生命の秩序と設計原理」(領域代表:岡田康志)が立ち上がりました。この領域では,生命現象を題材として,情報を力・エネルギーなどと同列に物理的対象として議論する新しい物理学を構築することを目指しています。本特集は,この新学術領域に大なり小なり関わりのある方々にご寄稿いただきました。分子から細胞,個体レベルに至る様々な階層の生命現象を物理の言葉で表現した,まさに最新の生物物理学研究をお届けできるものと確信しております。
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