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今日,人類は宇宙に飛び出し,長期宇宙滞在に挑戦している。米・露・欧州諸国・日本・カナダの15か国が共同運用する国際宇宙ステーション(ISS)で,2000年から宇宙飛行士の滞在が始まり,今では半年から1年ほどの長期滞在が可能となり,船外活動の機会も増している。また,中国は単独で,既に2016年9月から宇宙ステーション(天宮)の建設を始めており,2022年の完成を目指している。更に,世界の動向としては,再び月へ,火星へと,有人宇宙探査に対する人類の夢は尽きない。2017年9月に「月軌道近くに新宇宙ステーションを建設」という米露共同声明が出され,10月には米国の国家宇宙会議で「米国の宇宙飛行士を月に送り,旗を立てるだけでなく,火星やより遠くに行くために必要な土台を作る」ことが表明された。わが国においても,宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2030年ごろに国際協力のもと月面探査を目指しており,日本人初のムーンウォーカーの実現が一段と強くなっている。
一方,宇宙空間は磁場と大気に守られている地上とは異なり,生物学的効果の高い重粒子線(一粒子でも飛跡に沿って重篤なDNA切断を引き起こす)を含めて線質の異なる混合放射線が,低線量・低線量率で降り注いでいる。ISSでの1年ほどの長期滞在の間に浴びる放射線量は地上の約100倍の約0.3Svと推定されており1),船外活動では船内の約5倍の放射線に曝される。太陽表面で大規模な爆発が生じると,大量のプラズマ粒子が宇宙空間に放出され,比較的高い線量を被曝する可能性がある。月は大気がないため,月面表面で約1Sv/年を超えると推定され2),地球磁気圏から遠く離れた深宇宙では,特に重粒子線の被曝量が増すことも知られている。また,火星までの往復と滞在期間の合計約2年半で約1Svの被曝が予測されており3),これまでのミッション以上にがんや白内障の発症リスクが高くなり,中枢神経系や免疫機構への悪影響が危惧されている。更に,宇宙空間は微小重力環境であり,月や火星では地上の1/6,1/3の重力環境である(図1)。月や火星,宇宙空間での長期宇宙滞在を実現するためには,宇宙放射線のみならず,地球と異なる重力環境との複合影響を明らかにすることで,リスクを正しく評価し,宇宙での生活の質を高めることが喫緊の課題である。ここでは宇宙放射線と重力変化環境との複合影響研究の過去・現在・未来について紹介する。
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