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世界保健機関(World Health Organization;WHO)から2014年5月に報告された資料によると(http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs310/en/),2012年に世界で死亡した総数は5,600万人で死因の第1位は虚血性心疾患(740万人)ですが,第4位が下気道呼吸器感染症(310万人),第6位がHIV/AIDS(150万人)と下痢性疾患(150万人)です。医療技術が進歩を遂げている現代でも,感染症はいまだに主要な死亡原因の一つです。更に,それのみならず感染症は高度に国際化された現代社会においては国境を越えた公衆衛生上の重要な問題として認識されています。1997年の香港で発生した高病原性鳥インフルエンザA(H5N1),2003年に中国から起こった重症急性呼吸器症候群(SARS),2009年にメキシコに端を発したパンデミックインフルエンザ(H1N1),2011年に中国で見つかった重症熱性血小板減少症候群(SFTS),2012年に中東で起こった中東呼吸器症候群(MERS),2013年の中国での鳥インフルエンザA(H7N9),そして2014年の西アフリカでのエボラ熱など枚挙に暇がありません。これらの感染症は新興・再興感染症と呼ばれ,国際社会はその対策に特別の関心を払っています。
Stephen S. Morseは1995年の『Emerging Infectious Diseases』という雑誌の創刊号の「Factors in the Emergence of Infectious Diseases」という論文の中で,新興感染症(emerging disease)を「新規に出現した,もしくは以前から存在していたが,急速に罹患率や出現範囲を拡大した感染症」と定義しています。また,再興感染症(re-emerging disease)は「出現頻度が減少し制御されていたが,再度公衆衛生上の問題となった感染症」と考えられています。新興・再興感染症は,その疾病の犠牲となる症例の存在という直接的な影響だけでなく,経済影響や社会不安など間接的に国際社会全体に大きな影響を与えることも重要な問題となっています。CEDA(Committee for Economic Development of Australia)の報告によると,前述したエボラ熱については2014年から2015年の終わりまでに320億米ドル(3.8兆円)以上の資金が投入されることが試算され,2003年のSARSの際には約400億米ドル(4.7兆円)の経済的損失が生じたとされています。平成26年度のわが国の一般会計予算が約95.9兆円であることから,単一疾患の対処にわが国の一般会計予算の約5%を投じる必要性があったことになります。
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