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■セミインタクト細胞リシール法
セミインタクト細胞リシール法とは細胞内への分子導入法の一つである。細胞に連鎖球菌毒素ストレプトリシンO(SLO)を作用させると,SLOは形質膜のコレステロールに結合して温度依存的に直径約30nmの環状複合体を形成し,これが分子が通過できる孔となる。この形質膜が透過性になった細胞のことを,“セミインタクト細胞”と呼ぶ(図)。ここで温度依存的にSLOの穿孔活性が制御できることが重要である。コレステロール結合能がある一方で穿孔活性がない低温(0-4℃)で細胞に未結合の余分なSLOを洗い流すことができるため,形質膜だけに選択的に孔をあけることができ,細胞内のオルガネラなどの膜構造体へのダメージを最小限に抑えることができる。これが界面活性剤などを用いた穿孔方法に比べ,本方法の優れる点である。よって,セミインタクト細胞は形質膜,オルガネラ,細胞骨格といった主要な構造体が残されたまま細胞質が除去された細胞の器,つまり“細胞型試験管”として捉えることができる。細胞外部に添加された分子は拡散により細胞内へと導入される。よって,導入する分子の種類(タンパク質,核酸,糖など),数,組み合わせ(何種類でも可能),比率は問わない。そのため多数のタンパク質からなる細胞質もそのまま細胞内に導入し,細胞質を交換することもできる。実際,われわれはセミインタクト細胞に細胞分裂期に同調させた細胞から調製した細胞質を導入することで,細胞内環境を細胞分裂期に改変する試みを行っている1)。この結果,細胞分裂期で特異的に生じるゴルジ体分散(細胞内に一つしかないオルガネラであるゴルジ体が,細胞分裂期に二つの娘細胞へと分配されるために,小胞状に壊れ細胞質中に分散する現象)や染色体凝縮がセミインタクト細胞内で再構成されていることを見いだし,それにかかわるキナーゼの同定なども行っている1,2)。
セミインタクト細胞に形成された孔は再度閉じる(リシールする)ことが可能である(図)。形質膜にできた孔は細胞質とCa2+依存的な膜動過程により修復されることが報告されている。ここにはエンドサイトーシス,エキソサイトーシス,ブレブ(細胞の外に大きく膨らんだ膜)形成など,様々な膜動過程がかかわるようである3)。孔が閉じた細胞のことを,われわれは“リシール細胞”と呼んでいる。興味深いことにリシール細胞は生細胞に戻り,そのまま培養を続ければ増殖していく。よって,導入した分子の効果を元の生細胞の状態で検証することができ,セミインタクト細胞はリシール法の確立と共に,その可能性を大幅に広げることとなった。本稿では,まず細胞質交換法としてのセミインタクト細胞リシール法の展開の一つとして,細胞内環境を病態に改変した“病態モデル細胞”の例を紹介する4)。
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