増大特集 生命動態システム科学
Ⅱ.数理生物学
1.理論
(2)可塑性,頑強性,活動性の普遍生物学
金子 邦彦
1,2
Kaneko Kunihiko
1,2
1東京大学大学院総合文化研究科 広域科学専攻複雑系 相関基礎科学系
2東京大学 複雑系生命システム研究センター
pp.438-439
発行日 2014年10月15日
Published Date 2014/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425200028
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■はじめに
一般に,生命システムは内部ダイナミクスの揺らぎや様々な環境変動に対して,安定して機能を維持できるというロバストネス(頑強性)を持ち,他方,適応進化のダイナミクスにみられるように,様々な環境変動に対して,その状態を柔軟に変化させる能力を持つ。この頑強性と可塑性の背後には細胞内の膨大な反応の素過程が存在し,その結果として生物はしばしば大きな揺らぎや複雑な動態を示す。にもかかわらず,生きている状態は“変わりにくさ(ロバストネス)”と“変わりやすさ(可塑性)”をいかにして両立させているのだろうか。
こうしたロバストネスと可塑性の生物学的重要性は古くから認識されてきた。1950年代に英国の発生・進化生物学者Waddingtonは,エピジェネティック地形,Canalization,遺伝的同化といった概念を導入して,これらの問題への洞察を与えた1)。しかし,可塑性やロバストネスは一つ(ないし少数)の要素(分子)の振る舞いで決められるものではなく,それゆえ分子生物学の俎上には乗りにくいので,これらは曖昧な考え方に滞まっていた。
この状況のなかで,90年代初頭,われわれは複雑系生命科学を提唱し,分子,細胞,個体などの階層間の動的整合性による,適応,分化,進化の普遍的法則を探求してきた2)。ここで可塑性やロバストネスなどの状態量は少数成分の動態の結果ではなく,数千に及ぶ遺伝子発現ダイナミクスの結果である。更には,進化を通しての獲得の面もあり,進化による大自由度力学系の特性も明らかにしないといけない。そこで,以下の方向の研究を進めている。
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