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特集 細胞接着の制御
細胞の接着・遊走を司る偽足突起の単離とプロテオミクス―先端レーザー微細加工技術の応用
Selective isolation of pseudopodia by etching cells with excimer laser:application to proteomics
伊藤 彰彦
1
,
萩山 満
1
,
細川 陽一郎
2
Akihiko Ito
1
,
Man Hagiyama
1
,
Yoichiroh Hosokawa
2
1近畿大学医学部病理学教室
2奈良先端科学技術大学院大学
pp.244-248
発行日 2013年6月15日
Published Date 2013/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425101447
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生体内に存在する細胞の多くは,他の細胞や細胞外基質に接着している。ある種の細胞は,その接着を足場として自らの存在場所を移動させる(遊走する)。この細胞の接着・遊走という現象は個体発生において非常に重要な役割を果たすので,生命の根幹を担う生理現象として基礎生物学の領域で盛んに研究されてきた。しかし一方で,細胞の接着・遊走は様々な病理学的な局面において病変形成や病態形成の鍵として作用しているので,臨床医学の分野でも重要な研究対象である。
細胞接着・遊走が病変形成の鍵となっている最も典型的,かつ医学的に重要な局面は,癌が浸潤し転移するという現象である。癌の浸潤・転移に関する分子機序についてはまだ不明な点が多いが,最近の研究成果によると,癌浸潤の初期段階における上皮-間葉移行(epithelial-mesenchymal transition)能の獲得とそれに伴う遊走能の上昇が重要視されている。癌細胞が上皮性の性格を失い間葉系細胞の性格を獲得することにより,基底膜を越えて浸潤し,結合織内を遊走するとの考え方である。癌細胞の遊走能を規定する重要な要素は種々の走化性因子に対する反応性であり,癌細胞は走化性因子の濃度勾配に従って,細胞質を突起状に伸長することにより,その方向へと移動する。この構造物は偽足突起と呼ばれ,癌細胞が細胞外基質と接着し結合織内を浸潤性に遊走するために必須の構造物と考えられている。
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