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接着性の体細胞は接着(足場)を喪失すると,通常,増殖を停止するか細胞死を誘導し,浮遊状態や本来の組織以外での増殖を阻止する。この機構は,がん細胞の場合,その破綻が転移に直結することから,がん領域を中心にその機構の解明が進められてきた。その結果,G1期サイクリン依存性キナーゼ(CDK)の活性が増殖シグナルとともに接着シグナルに依存していることが示され,接着を喪失すると十分なCDK活性が得られなくなるために細胞周期がG1/Sで停止すると結論付けられた1)。しかし,この説明が適応できるのは,主に線維芽細胞であり,上皮細胞や内皮細胞では,増殖停止よりもむしろ細胞死(anoikisと呼ばれるアポトーシス)が誘導される。このように接着喪失に対する細胞応答には多様性がみられ,線維芽細胞のように細胞周期の推進力が単純に不足して増殖が止まる場合もあれば,上皮細胞のように脱接着状態での生存を阻止する機構が積極的に誘導されることもある。まだ未知の機構が存在する可能性もあり,細胞増殖の足場依存性制御機構に関する研究は発展途上にあると思われる。
筆者らは,細胞接着斑タンパク質Hic(hydrogen peroxide-inducible clone)-5を単離し,機能解析を進めてきた2)。その結果,最近,Hic-5が,脱接着に応答して細胞周期を停止させる新規のfailsafeシステムを形成していることを見出した。Hic-5は構造的には細胞接着斑LIMタンパク質paxillinファミリーに属する。そのため,主に細胞接着斑においてインテグリンシグナルのアダプター分子として機能すると考えられがちである3)。しかし,Hic-5は接着斑に加えて,アクチン骨格上や核内にも局在可能であり,さらに細胞質と核間をシャトルしていることから(後述),多様な細胞応答にかかわる可能性を秘めている。本稿ではHic-5機能について,筆者らの最近の成果を紹介する。
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