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高齢化が叫ばれて久しいわが国では高齢者に対する社会的負担の増加が問題視され,その解決が急務となっている。なかでも加齢に伴う骨格筋機能の低下はサルコペニアと呼ばれ,高齢者の転倒や骨折,それによる寝たきりを引き起こす要因である1)。これまでの報告から,骨格筋に起こる加齢性変化として骨格筋量の減少や筋力低下に加え,筋線維直径が減少することや筋線維型については速筋型が減少し遅筋型が増加すること,損傷時における筋再生の遅延,さらに間質における膠原線維の増加(fibrosis)や脂肪細胞の浸潤など多岐にわたる現象が引き起こされることがわかってきた。
骨格筋には組織幹細胞として古くから知られる筋衛星細胞(サテライト細胞)が存在し,筋損傷時に増殖し筋管へと分化することで筋組織の修復を担う。この筋衛星細胞についても加齢に伴い,その性質は変化し,老齢個体の骨格筋ではその数は枯渇し,多核の筋管を形成する筋分化能が低下する2)。骨格筋には筋衛星細胞以外にも脂肪分化能を有したFAP(fibroadipogenic progenitor)と呼ばれる脂肪前駆細胞群が存在する。実際にラットやマウス骨格筋から単離した骨格筋初代培養細胞(skeletal muscle primary cells;SKM-PC)を脂肪分化誘導条件下で培養すると多核の筋管以外にも成熟した脂肪細胞が出現する。加齢に伴いSKM-PCの脂肪分化能が亢進することが以前から報告されており3),このことは高齢者の骨格筋でしばしば脂肪浸潤がみられる知見と合致する。これらのSKM-PCの加齢性変化を指標に,若齢個体と老齢個体の血流を共有させる並体結合(parabiosis)実験や4),若齢個体から単離した細胞を老齢個体に生着させる移植実験などから5),SKM-PCでみられる骨格筋再生能低下などの加齢性変化は,その細胞自体に起因するだけでなく,ニッチと呼ばれる細胞外の環境に大きく左右されることが明らかとなってきた。幹細胞ニッチは血流に由来する,または支持細胞ならびに幹細胞自身から分泌される成長因子をはじめとした液性因子と,その支持を担う構造性細胞外マトリクスからなり,このそれぞれについてその加齢性変化とその分子メカニズムが研究されている。しかし,ニッチには非構造性細胞外マトリクス因子も存在し,本稿ではその一つであるSPARCについて,これまでの知見に加え,われわれのin vivo,in vitro両方面から行ったサルコペニアとの関連性に関する研究結果を紹介する。
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