特集 小脳研究の課題
特集「小脳研究の課題」に寄せて
伊藤 正男
1
1理化学研究所脳科学総合研究センター
pp.266-267
発行日 2011年8月15日
Published Date 2011/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425101153
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1950年代から今日まで半世紀以上にわたり大きく発展した生命科学の広大な分野の中で,脳の研究は物質と情報の両面にかかわるという特異な面を持っている。脳は多数のニューロンが繋がり合った神経回路網からできているが,この回路網が特有の構造を持ち,情報を処理し,種々の特異的な機能を発揮する脳の本体である。現代の神経科学の研究は,このような脳の神経回路網について物質と情報との関係を解明することが脳を理解する道であるとの固い信念のうえに立って進められている。
そのことを端的に表しているのが小脳の研究である。小脳に特徴的なニューロンの形態に始まり,シナプス作用,シナプス可塑性の解明,化学的シグナル伝達,その遺伝子制御へと,よりミクロに,より物質的な方向に解明が進む一方,古くから知られたその幾何学的な神経回路網構造を手がかりに比較的簡単な神経回路の情報処理メカニズム解明の先頭を進んできた。小脳の損傷によって特徴的な運動障害が現れることから,小脳の神経回路の機能がまずは運動の制御とその学習にあることが想定され,そのような機能を生み出す制御システムとしての小脳を中心とする脳の神経回路の解明が進んだ。この点で,小脳研究は計算論やロボット工学と結びついて,脳科学の中でもユニークな分野を拓いた。それらの成果のうえに立って,小脳の研究は今後どのように発展してゆくのかを占いたい,というのがこの特集「小脳研究の課題」の趣旨である。そのために小脳研究の各分野で活躍している方々に多様な観点から執筆をしていただいたので,読者の高覧に供する次第である。
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