Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
- サイト内被引用 Cited by
古代ギリシャの医学者ガレノスが蜜蝋やオリーブオイルを混ぜクリームを開発して以降,薬物の皮膚への投与は古くから行われてきたが,これらは主に皮膚表面もしくは皮膚直下の組織に対する表在性皮膚疾患や細菌感染症治療のためのものであった。近年,局所効果だけでなく全身暴露を期待した薬物の投与部位として皮膚が注目され,皮膚表面から皮下の血管内に薬物を移行させ,全身的薬効を得ることを目的とした経皮薬物送達システム(Transdermal Drug Delivery System:TDDS)に関心が集まっている。経皮投与は,(1)初回通過効果(摂取された薬物は消化管で吸収され,門脈を経由して肝臓で代謝されるため,体循環血液中に到達する割合と速度が低下する現象)や消化管障害を回避できる,(2)長時間にわたり一定の血中濃度を保持することができる,(3)経口摂取が困難な薬物や患者への適用が可能で,投与が簡便なためコンプライアンス(服薬指示の遵守)の向上が見込める,といった利点が挙げられる1)。
1965年に宇宙飛行士の酔い止めにスコポラミンが用いられ,79年にFDAから承認されて以降,現在までにニトログリセリンや硝酸イソソルビド(狭心症),エストラジオール(更年期障害),ニコチン(禁煙)などを含有したものが薬理効果の持続性を意図して利用されている。しかし,薬物が皮膚から吸収されるためには融点が低く(200℃以下),分子量が小さく(500Da以下),適度に脂溶性を示すというような物理化学的条件を整える必要があった2)。皮膚は本来,生体外からの異物侵入に対する防御の働きがあり,化学物質を容易には透過しないため,単独適用しても充分な薬効が得られないものも多く,経皮吸収型製剤として開発される薬物の選択は厳しい制約を受けてしまう。そこで,薬物の皮膚透過性を改善するために種々の経皮吸収促進法の開発が盛んに行われており,TDDSのもつ多くのメリットが活用されつつある。
Copyright © 2010, THE ICHIRO KANEHARA FOUNDATION. All rights reserved.