- 有料閲覧
- 文献概要
- 参考文献
[用いられた物質/研究対象となった受容体]
デシプラミン,SNC80/δオピオイド受容体
感情障害や不安障害といった機能性精神障害の病態は未だ明確には理解されていない。その原因として,脳の高次機能であるヒトの情動性を動物モデルに正しく反映させることが困難であることが挙げられる。一方で,嗅球摘出(olfactory bulbectomy:OB)動物では,新奇物質に対する攻撃性の増加やオープンフィールド上での活動性の亢進など衝動性を示唆する行動が認められる。したがって,嗅球摘出動物の示す種々の行動薬理学的解析およびその薬物応答性から,その異常行動が不安を伴った衝動性を反映している可能性も推測される。嗅球摘出ラットのうつ病モデルとしての妥当性については,嗅球摘出術によりモデルを作製するというその理論的必然性および攻撃性の亢進といったうつ病との症状の類似性の欠如から疑問視する意見もある。
しかしながら,OBラットに認められる神経化学的変化(脳内ノルアドレナリンやセロトニン含量の低下),神経内分泌学的変化(活動期のコルチコステロンの分泌過剰),神経免疫学的変化(マクロファージの活性化など)や性活動および食欲の低下などがうつ病患者の臨床症状と高い類似性を示すことが知られている1)。最近では核磁気共鳴画像(MRI)の検討により,OBラットの皮質,海馬,尾状核および扁桃体においてうつ病患者の組織学変化と同様な萎縮および脳室の拡大が認められることが報告されている2)。また,OBラットに認められる異常行動ならびに神経化学的変化は抗うつ薬の数週間の慢性投与によって改善されること,さらに重症うつ病患者の治療に有効とされている電気ショック負荷がOBラットの異常行動を改善することが明らかにされている。これらのことから,現在OBラットはうつ病の病因解明の研究手段として有力な動物モデルの一つと考えられる。
Copyright © 2009, THE ICHIRO KANEHARA FOUNDATION. All rights reserved.