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細菌の細胞質は膜構造と細胞壁を含む菌体表層構造によって保護されているが,一方では多様な分泌装置を保持しており,毒素,付着因子,エフェクター,DNAなど様々な物質が菌体外に分泌される。エフェクターは広義で細菌毒素に分類されるが,後述する分泌装置によって宿主細胞内に注入されることではじめてその機能を発揮する。また,病原細菌は多種類のエフェクターを宿主に注入し,エフェクターと宿主側因子の相互作用により宿主シグナル伝達系が攪乱され感染が成立する。エフェクターの宿主移行に関与する分泌装置は時空間的に制御されており,環境の変化,生体内への侵入によってダイナミックに変化する。例えば腸管病原性大腸菌(enteropathogenic Escherichia coli;以下EPECと略す)においては,栄養に富んだ環境下ではべん毛により積極的に運動しているが,生体内環境に近い条件ではべん毛の発現は減少し,病原性発揮に関わるⅢ型分泌装置(type Ⅲ secretion system;以下T3SSと略す)の発現が増大する1)。また,タンパク質の分泌のヒエラルキーについても厳密に制御されていることがT3SSの研究で明らかとなり,その制御機構について分子レベルで解明されつつある。
グラム陰性菌の細胞質は細胞質膜(内膜)と外膜で被われており,タンパク質が菌体外に分泌されるためには,この二つの膜構造を越える必要がある。このような膜構造をもつために,グラム陰性菌では多様な分泌装置が発達してきた(図1)。一方,グラム陽性菌は外膜をもたないために,一つの膜構造(内膜)を越えるだけでタンパク質は菌体外に分泌される。このため,Sec膜透過装置が直接分泌装置として機能しているが,他の分泌装置については長い間謎であった。しかしながら,新たな分泌装置が結核菌で発見され,その後,他のグラム陽性菌にも保存されていることが明らかとなり,現在ではⅦ型分泌装置として総称されている。本稿では,まず初めに分泌装置の全体像を述べ,エフェクターの宿主移行に関与するT3SSにおける最近の知見を紹介したい。
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